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かがり火の岸壁でエビスビール片手に能を楽しむ
『星の輝き 船橋能楽の夕べ』を観て TEXT:新城 健一 2004.05.22

かがり火と夜風の中の能

休憩をはさみ、「火入れ式」が行なわれました。
舞台の左右にかがり火が灯されると、前半までのカジュアルな世界から一転、厳粛で幽玄の空間へと変容しました。

舞台上には裃(かみしも)に着替えた大倉氏、一噌氏の両名に加え、観世流小鼓方能楽師、鳥山直也氏、金春流太鼓方能楽師、大川典良氏という4名の囃子方(はやしかた)が登場しました。



▲囃子方4名による、能の音楽の世界。

伸びやかで楽しげな『早舞(はやまい)』、音により情景が描写される『獅子(しし)』が奏でらた後、地謡(じうたい/コーラス)と子方(こかた/子役)を加え、いよいよ面(おもて)をつけたシテ方(主役)の登場です。

演目は『船弁慶(ふなべんけい)』。シテ、平知盛(たいらのとももり)の亡霊、工藤寛。

能は前半と後半に場面が分かれているものが多いのですが、このイベントでは後半のクライマックスの部分だけを取り出し「舞囃子(まいばやし)」という形式で、楽しむことができました。後で確認したところ、舞囃子は、通常、面(おもて)や装束(しょうぞく)を付けずに行なわれるそうですが、このイベントでは能の魅力を表現するために、特別に面をつけたとのことです。
面は、「怪士(あやかし)」。


▲夜の闇を背負って現われたシテの異様な迫力。

クライマックスは、囃子方の奏でる音楽も、ストーリーも、シテ方の舞も、すべてが最高潮に達する、最大の見せ場。
これは、合戦で死んだ平知盛が、源義経と弁慶に襲いかかるシーンです。

『船弁慶』の主役は、この知盛の亡霊なのです。



▲夜の港で、潮風に髪を振り乱す亡霊。

その姿は、能楽堂で観るものとは異なり、荒々しく、猛り狂う迫力がありました。
夜の潮風に髪がなびき、物理的にそこに存在している生々しさ。
壇ノ浦の合戦で死した知盛りが、海から現われたかのような舞台設定。

かつて、野外劇で『天守物語』を観たことがあります。その中で「今夜もよい月だこと」というようなセリフがありました。そのとき、頭上に本物の満月が輝いていたことに気づき、震えながら物語に引き込まれたことがあります。

野外という天然の舞台装置は、人工的に作り上げた舞台では得ることの難しい、圧倒的なまでの力を持っています。それは、観客と対峙する舞台の上に設えられた、限定された空間のものではなく、観客そのものを包み込む場の持つ力なのかもしれません。

そうした野外の場と物語が密接に結びついたとき、野外の状況そのものが物語化して観客を包み込みます。舞台上で演ぜられる物語を見ているはずの観客が、物語に包み込まれていきます。

これが、野外という天然の舞台装置が持つ、観客を興奮させるひとつの要素なのかもしれません。

▼企画意図などはNPO法人せんすのサイトにあります。

星の輝き 船橋能楽の 夕べ 特別協賛サッポロビール千葉工場

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